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大阪高等裁判所 平成2年(う)687号 判決

本店所在地

大阪府高槻市栄町二丁目一九番八号

サカエ商事株式会社

(代表者代表取締役 安間俊三)

本籍

大阪市東淀川区淡路四丁目二七六番地

住居

大阪府吹田市南清和園町三番三一号

会社役員

安間俊三

昭和二年四月二三日生

右サカエ商事株式会社に対する法人税法違反、右安間俊三に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、平成二年六月二五日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 大本正一 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大槻龍馬作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官大本正一作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

第一控訴趣意中、法令適用の誤り及びこれにともなう事実誤認の主張について

一  論旨はまず、「原判示第二の一ないし三の所得税法違反の各事犯で被告人安間俊三の主な所得源とされている有価証券の譲渡による所得については、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法九条一項一一号により原則として非課税とされており、ただ同号イは例外的に非課税とされない所得として「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定し、これを受けて昭和六三年政令第三六二号による改正前の所得税法施行令二六条一項及び二項が設けられているが、原則非課税の例外として課税要件を定めるに当たつては法律でその範囲を明確にすべきである。しかるに、右改正前の九条一項一一号のイは「売買の継続性」という抽象的で不確定な概念を以て課税要件を定めたにすぎず、政令に対する委任の方式が抽象的かつ一般的であつて著しく明確性を欠き、結果として、課税と科罰に関する裁量を行政機関の恣意に委ねたものであるから、罪刑法定主義及び租税法律主義に反し、憲法三一条、三〇条、八四条に違反する。また右改正前の所得税法施行令二六条二項は、売買の実情を顧慮することなく、売買の回数及び株数等のみを基準として営利を目的とした継続的行為と認める旨を規定している点で法律の委任の限度を逸脱するものである。それゆえ、右各法令の合憲性を容認した原判決は、原判示第二の各所為につき法令の適用を誤り、ひいては、課税所得でないものを課税所得と認定した点で事実を誤認したものである。」というのである。

しかしながら、右改正前の所得税法九条一項一一号イの規定は「継続して有価証券を売買することによる所得」が課税の対象になることを法律自体で明示したうえ、その課税の対象となる所得の範囲をさらに明確にすることを政令に委任したもので、このような法律の定め自体が憲法三〇条、八四条、三一条(憲法の定める租税法律主義と罪刑法定主義)に違反するとの所論は容れることができない。また、右改正前の所得税法施行令二六条二項は、有価証券の売買を行う者の年間における株式等の売買の回数及び株数等の形式的基準を定め、これに該当する者の有価証券の売買による所得が、継続して有価証券を売買することによる所得として、課税の対象となることを規定しているのであるが、そこで定められた形式的基準の内容を見れば、課税対象となる有価証券の継続的取引による所得の範囲をより明らかにしたものであることが明らかで、法律による右委任の範囲を逸脱していないものと認めることができる。これらの点はすでに最高裁判所の判例(昭和五九年三月一六日第三小法廷判決)により確認されているところでもある。このように、原判決には所論のごとき法令適用の誤りや事実誤認の非違はなく、論旨は理由がない。

二  論旨はまた、原判示第二の二及び三の所得税法違反の各事実について、「被告人安間俊三と証券会社との間における有価証券の信用取引に関する各年末の未決済取引に係る債務(委託手数料、支払利息等)と債権(受取利息)の差額は、その年中における必要経費として計上されるべきものであるから、原判示第二の二の事実については三三三万七八六八円、原判示第二の三の事実については四五二万三六七七円が必要経費として追加計上されるべきである。原判決が所得税法三五条二項、三七条一項、改正前の所得税法施行令一一九条の各規定を無視し、これらより劣位にある平成元年一二月六日所得税基本通達の一部改正による廃止前の所得税基本通達(九-二一及び九-二三)に依拠して右主張を排斥しているのは法令の解釈を誤り、ひいては、所得額の算定につき事実を誤認したものである。」というのである。

しかしながら、「信用取引の方法による株式の売買から生ずる所得は、当該信用取引の決済の日の属する年分の所得とする。」との右廃止前の所得税基本通達九-二三は、昭和六三年法律第一〇九号所得税法等の一部を改正する法律の施行前において、雑所得の金額に関する所得税法三五条二項二号を信用取引の方法による株式の売買から生じる所得について正当に解釈適用したものと言うことができる。そうである以上、費用収益対応の原則を定めた所得税法三七条一項(なお、昭和六三年政令第二四二号による改正前の所得税法施行令一一九条)の趣旨からしても、所論のような各年末における未決済の信用取引に関する債務(債権との差額)をその年中における必要経費として計上することのできないことはむしろ当然のことである。これと同旨の原判決の判断に所論のごとき法令解釈の誤りや事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

第二控訴趣意中、事実誤認の主張について

論旨は、「原判決が原判示第二の各事実であげる申告所得税額は、確定申告書を見誤り、確定申告の際に納付すべき金額と取り違えて認定しているもので、この事実誤認は判決に影響することが明らかである。」というのである。

そこで調査するに、所得税法二三八条一項の罪の構成要件は「偽りその他不正の行為により、同法一二〇条一項三号に規定する所得税の額につき所得税を免れた者」となつており、同法一二〇条一項三号に規定する所得税の額とは源泉徴収額を控除する前の所得税の額のことであつて、源泉徴収税額を控除した後の納付すべき税額(納税額)でないことは法文の上からも明らかである。したがつて、本件のように確定申告を経ている場合に、罪となる事実として免れた所得税の額を算出するには、納付すべき税額についてその実際額から申告額を差し引くのではなく、源泉徴収税額を控除する前の所得税の額についてその実際額から申告額を差し引く(犯情としてほ脱率を見る場合にも源泉徴収税額を控除する前の所得税の額どうしを対比する。)のが正当である。この点、原判示第二の各事実で申告された所得税額として挙げられている金額は、いずれも源泉徴収税額を控除した後の申告納税額であつて、所論のとおり誤りといわなければならない。しかし、原判決は、正規の所得税額についても源泉徴収税額を控除した後の納付すべき所得税額を挙げており、いずれの場合も申告された源泉徴収税額よりも実際の源泉徴収税額の方が多いところから、免れた所得税の額は、源泉徴収税額を控除する前の所得税額についてその実際額から申告額を差し引いた額よりも少なく認定されている(量刑の事情中に述べられているほ脱率についても、九七パーセントとあるのが九一パーセントに訂正され、九九・五パーセントとあるのが九八・四パーセントに訂正される程度のそごが生じるにすぎない。)から、右の誤りは判決に影響しないというべきである。論旨は容れることができない。

第三控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は各被告人について原判決の量刑不当を主張し、その理由として、〈1〉重加算税の課税要件(国税通則法六八条)と所得税ほ脱犯の構成要件(所得税法二三八条)とは理論的に重なり合うから、同一の行為について懲罰に相当する重加算税のほかに刑罰を科することは憲法三九条に違反すると解されるところ、最高裁判決はこれを二重処罰に当たらないとしているけれども、少なくともこの点に対する配慮を欠いた量刑は不当というべきであること、〈2〉憲法一四条の法の下の平等の趣旨からすると、一方で、国会議員や大企業等の本件より遙かに多額でかつ悪質な脱税事犯に対し追徴税が課されたのみで起訴猶予や寛大な処分がなされているのに対し、本件の量刑は余りにも均衡を失すること、〈3〉本件で被告人安間の所得の原因となつた有価証券の取引は常に損益の確率二分の一という危険の上に成り立つているのであるから、この点も量刑上考慮されるべきであること、〈4〉所得税法違反につき現行税法を適用すると、ほ脱税額は著しく低額となるのであり、税制改革法や消費税法等が施行されている現時点からみると、原判決認定のほ脱税額は、所得、消費、資産等の間に課税の不均衡が存在した当時の税体系の下におけるものであるから、量刑においてはこの点も考慮されなければならないことなどを指摘する。

よつて、調査し、検討するに、本件は、不動産賃貸料を除外したり、特定資産の買替を仮装して租税特別措置法による課税の特例の適用を受けるなどの方法で所得を過少に申告し、三一〇〇万円余の法人税をほ脱した法人税法違反、及び、株式の継続的取引による所得等を除外して、三期にわたり合計三億四四〇〇万円余の所得税を免れた所得税法違反の各事犯である。このうち法人税法違反は、株の運用資金に当てるため、家賃収入を除外したり、あるいは土地を売却したことによる多額の譲渡益を隠すため知人と通謀のうえ架空の売買契約書を作成して前記課税の特例に当たることを装つたりしたものであり、所得税法違反は、自己の株式取引が課税要件をはるかに超えていることを知りながら、株式の継続的取引による多額の所得の総てと被告人安間名義以外の株の配当金を除外したりするほか、不動産賃貸料や預金の利子所得まで秘匿したりしていたものである。そして、そのほ脱率も法人税法違反では九四%、所得税法違反では実質的に見ていずれも九一%(昭和六一年分は九八%、平均して九七%)を超える高率である。こうした犯情に照らすと、被告人らの刑事責任は重大であるといわざるを得ない。

また、重加算税のほかに刑罰を科することが合憲であることはすでに最高裁判所の判例で確認されているところであり、しかも、原判決が、被告人らにおいて本税のほか所論の重加算税等を実質的にすべて納付している事情を配慮したうえで本件の量刑に当たつていることは、その説示するところからも明らかである。このうえは、所論指摘のその余の諸事情や、被告人安間がその後株式の信用取引の決済で五億円もの損失を出していること、その他同被告人の健康状態(高血圧、糖尿病等)等を併せ斟酌したとしても、原判決の量刑(被告法人につき罰金八〇〇万円、被告人安間俊三につき懲役二年及び罰金八〇〇〇万円(懲役刑につき四年間刑執行猶予、労役場留置一日二〇万円)。)が不当に重いということはできない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡本健 裁判官 阿部功 裁判官 鈴木正義)

平成二年(う)第六八七号

○控訴趣意書

法人税法違反 被告人 サカエ商事株式会社

同 安間俊三

所得税法違反 被告人 安間俊三

右被告事件につき、平成二年六月二五日、大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

平成二年一〇月三〇日

弁護人 大槻龍馬

大阪高等裁判所第四刑事部 御中

目次

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき憲法違反及び法令違反ないし事実の誤認がある。・・・・・・一丁表

一、原判決の罪となるべき事実のうち第二について・・・・・・一丁表

二、有価証券の譲渡所得が占める割合について・・・・・・二丁表

三、有価証券の譲渡所得に対する課税と科罰についての主張・・・・・・二丁裏

四、右主張に対する原判決の判示・・・・・・三丁裏

五、原判示に対する反論・・・・・・四丁表

1.憲法三一条と罰刑法定主義・・・・・・四丁裏

2.憲法三〇条・八四条と租税法律主義・・・・・・五丁表

3.改正前の所得税法九条一項における委任の違憲・・・・・・六丁表

4.税制改革に伴う違憲の是正・・・・・・七丁裏

5.最高裁判決(昭和五五年(あ)第一四九一号)について・・・・・・一一丁表

6.結び・・・・・・一五丁裏

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反ないし事実誤認がある。・・・・・・一五丁裏

一、各年末における未決済取引に係る確定債務に関する主張と原判決の判示・・・・・・一五丁裏

二、右判示に対する反論・・・・・・一六丁裏

第三点 原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。・・・・・・一七丁裏

一、各所得金額とこれに対する所得税額に関する原判決の判示・・・・・・一七丁裏

二、右判示の誤りについて・・・・・・一八丁表

三、右判示の誤りは量刑の事情の判示にも及んでいる。・・・・・・一八丁裏

第四点 原判決の刑の量定は不当に重い。・・・・・・一九丁表

一、原判示の量刑の事情及び量刑の内容・・・・・・一九丁裏

二、原判決の量刑の違憲・不当について・・・・・・二〇丁表

1.憲法三九条違反について・・・・・・二〇丁表

2.憲法一四条違反について・・・・・・二一丁表

3.有価証券取引の実情・・・・・・二四丁表

4.所得税法違反につき現行税法を適用すると逋脱税額は著しく低額となる・・・・・・二六丁表

5.被告法人と安間被告人の納税と国費の使途・・・・・・二九丁表

6.結び・・・・・・二九丁裏

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき憲法違反及び法令違反ないし事実の誤認がある。

一、原判決の罪となるべき事実のうち第二ついて

原判決は罪となるべき事実のうち第二として

被告人安間俊三は、所得税を免れようと企て

一 昭和五九年分の所得金額が六四七万八三七二円(別紙〈3〉修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、継続して有価証券を売買したことによる所得の全てを除外するなどの行為により所得を秘匿した上、同六〇年三月一五日、大阪府吹田市片山町三丁目一六番二二号所在の所轄吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三二五万二三九〇円で、これに対する所得税額が六七万四四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額二九二六万円と右申告税額との差額二八五八万五六〇〇円(別紙〈6〉税額計算書参照)を免れ

二 昭和六〇年分の所得金額が一億一九三万九六九九円(別紙〈4〉修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿した上、同六一年三月一五日、前記吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三五五万三一三二円で、これに対する所得税額が七〇万三六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額五二七八万九九〇〇円と右申告税額との差額五二〇八万六三〇〇円(別紙〈6〉税額計算書参照)を免れ

三 昭和六一年分の所得金額が四億四七九万四四七〇円(別紙〈5〉修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の行為により所得を秘匿した上、同六二年三月一六日、前記吹田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一六〇三万二一三八円で、これに対する所得税額が一一三万八〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額二億六五一〇万七一〇〇円と右申告税額との差額二億六三九六万九一〇〇円(別紙〈6〉税額計算書参照)を免れた

との事実を認定した。

二、有価証券の譲渡所得が占める割合について

而して右各年分の所得金額のうち、有価証券の譲渡に関する分は、

昭和五九年分 四三九七万二一九四円

(六七・九一パーセント)

昭和六〇年分 七四一一万四四六九円

(七二・七〇パーセント)

昭和六一年分 三億七四四七万六五六二円

(九二・五一パーセント)

合計 四億九二五六万三二二五円

(八六・一九パーセント)

であることは、検察官の冒頭陳述書別紙内訳明細書によって明らかであって、右三ケ年分の総所得額五億七一四八万二五四一円のうち八六・一九パーセントを占めるものである。

従って有価証券の譲渡による所得が、課税対象とならないのであれば、逋脱所得額は、総所得額の一三・八一パーセントにあたる七八、九一九、三一六円となり、逋脱率も著しく低率となり、告発・起訴に至らず更正処分だけで処理されるのが通例と思料される。

三、有価証券の譲渡所得に対する課税と科罰についての主張

弁護人は、原審において、有価証券の譲渡による所得が課税ならびに科罰の対象とならないことについて次のとおり主張した。

有価証券の譲渡による所得に対する課税につき、昭和六三年法律第一〇九号所得税法等の一部を改正する法律による改正前の所得税法九条一項一一号イは、有価証券の譲渡による所得のうち非課税とされない所得として「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定し、これを受けた昭和六三年政令第三六二号所得税法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令による改正前の所得税法施行令二六条は、一項において「法第九条一項一一号イ(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行う者の最近における有価証券の売買の回数、数量、又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする。」と規定し、二項において「前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の同項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券を売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。一 その売買の回数が五〇回以上であること。二 その売買の株数又は口数の合計が二〇万以上であること。」と規定していたが、右所得税法九条一項一一号イは、原則として非課税・不可罰の対象とされていた有価証券の譲渡による所得について、「売買の継続性」という抽象的で不確定な概念を以て課税要件を定めたにすぎず、委任の方式が抽象的、一般的であって著しく明確性を欠き、課税と科罰に関する裁量を行政機関の恣意に委ねたものであるから、罪刑法主義及び租税法律主義に反し、憲法三一条、三〇条、八四条に違反し、さらに、右の所得税法施行令二六条二項は、売買の実状を顧慮することなく営利を目的とした継続的行為と認める旨規定している点で、法律の委任の限度を逸脱するものである。

四、右主張に対する原判決の判示

右に対し、原判決は次のように判示して右弁護人の主張を斥けた。

しかしながら、右所得税法の規定は、継続して有価証券を売買することによる所得が課税の対象となることを法律自体において明示した上で、その課税の対象となる所得の範囲を更に明確にすることを政令に委任したものであって、このような法律の定めが憲法上許されることは最高裁判所の判例(最高裁判所第三小法廷昭和五九年三月一六日判決・裁判集刑事二三六号一七九頁、同大法廷同三〇年三月二三日判決・民集九巻三号三三六頁、同大法廷同三三年七月九日判決・刑集一二巻一一号二、四〇七頁)に徴し明らかである。また、右所得税法施行令二六条一項は、前記所得税法に規定する政令で定める所得とは、同項に示す実質的基準に照らし営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とすると規定していたところ、同条二項は、一項を受けて、有価証券を売買を行う者の株式等の売買の回数及び株数等の形式的基準により、その者の有価証券の売買による所得が一項の所得に当たる場合を規定し、もって、課税の対象となる有価証券の継続的取引による所得の範囲を明確にしていたものであって、前記所得税法の委任の範囲を逸脱しているものとは認められない(前記最高裁判所第三小法廷昭和五九年三月一六日判決)。したがって右主張はいずれも採用出来ない。

五、原判示に対する反論

右の原判決の判断は、昭和五九年三月一六日最高裁大法廷判決(昭和五五年(あ)第一四九一号)の判示の結論だけをそのまま引用したものであって、右最高裁判決の結論は、その前提を誤ったものであって変更さるべきものであるとの弁護人の主張に対する具体的な判断を回避したものである。

そこで右弁護人の主張を改めて詳述する。

1.憲法三一条と罪刑法定主義

明治憲法は「日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問処罰ヲ受クルコトナシ」と規定していた(二三条)。いわゆる罪刑法定主義の規定である。

日本国憲法三一条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又その他の刑罰を科せられない」と規定し、明治憲法二三条と同じように刑罰を定めるには法律によるべきだという意味の罪刑法定主義を定めたものかどうかは、やや明確を欠くが、その英米法的起源からみて、積極に解されるし(宮沢俊義・法律学全集・憲法Ⅱ・三九九頁)、さらに、当然の前提として内容たる犯罪及び刑罰について法律によるべきことを要請するものと解しなければならず、ここに「法律」とは国会で法律の形式で制定された狭義の法律を意味するのであり、犯罪を法律で規定しなければならないということは、犯罪の成立要件を法律で明確に規定しなければならないことを意味し、ことに犯罪の特別構成要件は、できるだけ明確に規定されること要するとされている(團藤重光・注釈刑法(1)六頁以下)。

2.憲法三〇条・八四条と租税法律主義

つぎに日本国憲法三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」と定め、八四条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定め、いわゆる租税法律主義を明示している。

即ちあらたに租税を起し、又は既定の租税の税率を変更するには形式上の意義における法律によらなければならないとするものであって、この原則の源は遠くマグナカルタに遡り刑法における罪刑法定主義の原則と共に双生児出誕を見たとされるものである。

この原則は「国家は法律の定める限度を超えて租税を賦課徴収することができない」ということと、「国民は法律に定める限度を超えて国家の恣意的な課税をうけることがない」という二つのことを意味しており、租税の賦課徴収をもって法律事項とすることにより行政の賦課徴収の恣意的発動を封じ、国民の財産権への恣意的侵害を阻止しようとすることが強調されているのである。

そしてこの場合の「法律」も国会で法律の形式で制定された狭義の法律を意味するものである。

憲法八四条にいう「法律に定める条件による」の意味は必ずしも明確ではないが、租税に関し、課税物件・課税標準・税率・納税義務者等の全部にわたって、つねに法律で定めなければならないというのではなく、ことの性質上、例外的には多かれ少なかれ他の法形式への委任が許されるから、そういう形式へある範囲で委任された場合を予測して、特に「法律に定める条件による」としたかもしれない。

しかし、ここに「法律に定める条件による」とあることを根拠として、無制限な委任ができると解すべきでない。「国会中心主義をとる憲法の精神に照らしていえば、国会の立法権を侵すような広範な一般的委任は許されないと解すべきである。委任命令で規定しうべき事項は、法律の補充的規定、法律の具体的特例規定及び法律の解釈的規定に止まるべきもので、法律そのものを形式的に変更し廃止する規定のごときを設けることはできない。」とされている(田中二郎著新版行政法上巻全訂第二版一六一頁)。

3.改正前の所得税法九条一項における委任の違憲

而して、昭和六三年法律第一〇九号「所得税法等の一部を改正する法律」施行以前の所得税法九条一項は、「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と非課税の原則を示したうえ、第一号ないし第二二号までいわゆる非課税所得を制限列挙しており、第一一号において「有価証券の譲渡による所得のうち、次に掲げる所得以外のもの」としてイないしニを列挙しているが、そのうちイは「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定している。

右の規定の文言によっても改正前の所得税法は有価証券の譲渡益については非課税を原則としていたものと理解され、さらに右改正について、大蔵省が「株式等の譲渡益については、非課税を原則とする制度を改め、原則課税とすることとした。」と説明を加えていることによっても明らかである(昭和六三年一二月三〇日付官報、号外特二〇号、五頁下段)。

有価証券の譲渡による所得は、原則として非課税であるから、これについては原則として所得税の逋脱はあり得ない。即ち可罰の対象となるものではない。そして例外的に課税の対象となったとき、はじめて所得税の逋脱があり得ることになり可罰の対象となるわけである。

しかも、改正前の所得税法九条は、もっぱら、抽象的で不確定概念ともいうべき「売買の継続性」を課税要件と定めるのみで、取引の当事者からすれば、どのような要素があれば、継続的売買と認定されるのか、まったく予測できないから、取引きの予測可能性を担保する租税法律主義に著しく反する。そのうえ、改正前の所得税法施行令二六条で定めた課税要件は、これを法律で課税要件化することを阻止するだけの合理的理由は存しない。

一般に罰則を伴う立法においては、法律は、可罰対象となる犯罪構成要件を規定し、その例外(いわゆる除外事由)を政令の定めるところに委ねるのが通例であり、また所得課税に関する税法関係の立法においても課税標準(所得)を構成する益金となるべきものの上限と、損金となるべきものの下限を法律をもって定め、その枠内における運用を政令に委ねるのが通例であって、このことは立法機関が国民の権利尊重の枠を決め、行政機関においてその枠内における適切な緩和運用によって一方では国民の権利を尊重し、他方では行政の妙味を発揮するところに委任の本質が存在する。

従って前記のように原則として非課税・不可罰の対象であるものについて「継続して有価証券を売買する所得として政令で定めるもの」というだげて、課税標準が具体的に算出できないような表現による委任の方式は抽象的・一般的であってその内容は著しく明確性を欠き、国民の権利にとって極めて重要な可罰と不可罰(自由権)、課税と非課税(財産権)の境界の線引きを政令に委ねるものであり、その実質は科罰と課税に関する裁量を行政機関の恣意に委ねるものであって、このような委任の方式は、その所得が課税の対象となることを明示したものとは言えず、立法機関の怠慢により国民の権利尊重をないがしろにするもので明らかに罪刑法定主義並びに租税法律主義に反し、憲法三一条・三〇条・八四条に違反するものといわなければならない(別添資料一、北野弘久教授の鑑定所見書第一項及び別添資料二、村井正教授の鑑定意見書参照)。

4.税制改革に伴う違憲の是正

前述のとおり、昭和六三年法律第一〇九号所得税法等の一部を改正する法律により、旧所得税法第九条一項中第一一号が削られて、株式等の譲渡益については、非課税を原則とする制度を改め、課税を原則とすることになった。

そして、政令第三六二号所得税法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令により、旧所得税法施行令第二六条も同時に削られ廃止された。

右の改正に伴って前記法律第一〇九号において、租税特別措置法第三七条の一〇を改めて「株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」を規定し、さらに第三七条の一一「上場株式等に係る譲渡所得の源泉分離選択課税」の規定を新設し、法律自体において株式等の譲渡所得に関する課税標準が具体的に算出し得る基本となる条件を明確化したので、従前のような政令に対する曖昧な委任は姿を消した。

因みに第三七条の一〇及び第三七条の一一が、課税標準が具体的に算出できる基本となる条件を明確化している部分を挙げると次のとおりである。

○ 第三十七条の十

居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、昭和六十四年四月一日以後に株式等の譲渡(証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一三項に規定する有価証券先物取引の方法により行うものを除く。以下この項及び事項並びに次条において同じ。)をした場合には、当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(第三十二条第二項の規定に該当する譲渡所得を除く。第四項及び次条において「株式等に係る譲渡所得等」という。)については、所得税法第二十二条及び第八十九条並びに第百六十五条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る譲渡所得等の金額(第六項第五号の規定により読み替えられた同法第七十二条から第八十七条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額。以下この条において「株式等に係る課税譲渡所得等の金額」という。)の百分の二十に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなす。

2 前項前段の場合において、株式等の譲渡が証券取引法第二条第十一項に規定する証券取引所に上場されている株式その他これに類するものとして政令で定める株式(当該証券取引所に上場された日その他の政令で定める日(以下この項及び次条第一項において「上場等の日」という。)においてこれらの株式をその取得をした日の翌日から引続き所有していた期間として政令で定める期間が三年を超えるものに限る。)の譲渡(上場等の日以後一年以内に行われる譲渡で証券業者(同法第二条第九項に規定する証券会社及び外国証券業者に関する法律(昭和四十六年法律第五号)第二条第二号に規定する外国証券会社をいう。次条において同じ。)への売委託に基づくもの又は当該証券業者に対するものに限る。)であるときは、当該譲渡による株式等に係る譲渡所得等の金額は、当該株式等に係る課税所得等の金額の二分の一に相当する金額とする。

○ 第三十七条の十一

居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、昭和六十四年四月一日以後に証券業者又は銀行の営業所(以下この条において「証券業者等の営業所」という。)において、当該証券業者若しくは銀行への売委託により前条三項に規定する株式等(証券取引法第一条第十一項に規定する証券取引所に上場されているものその他これに類するものとして政令で定めるものに限る。)の譲渡(上場等の日以前に取得した当該株式等のうち政令で定めるもの以外のものの譲渡にあっては、上場等の日以後一年以内に行われるものを除く。以下この項において同じ。)をする場合又は当該証券業者に当該株式等の譲渡をする場合において、当該株式等のこれらの譲渡による株式等に係る譲渡所得等につきこの項の規定の適用を受けようとする旨その他大蔵省令で定める事項を記載した申告書を当該証券業者等の営業所を経由して納税地の所轄税務署長に掲出したときは、その提出の時以後に当該証券業者等の営業所において行う当該証券業者又は銀行への売委託に基づく当該株式等の譲渡及び当該証券業者に対する当該株式等の譲渡(以下この条において「上場株式等の譲渡」という。)による株式等に係る譲渡所得等については、所得税法第二十二条及び第八十九条並びに第百六十五条並びに前条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に対し百分の二〇の税率を適用して所得税を課する。

2 前項の規定の適用を受ける上場株式当該株式等の譲渡の対価の支払をする証券業者または銀行は、当該上場株式等の譲渡の対価の支払をする際、当該上場株式等の譲渡による譲渡利益額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額の所得税を聴取し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

3 前項の規定により徴収して納付すべき所得税は、所得税法第二条第一項第四十五号に規定する源泉徴収に係る所得税とみなして、同法、国税通則法及び国税徴収法の規定を適用する。

4 第一項及び第二項に規定する譲渡利益額は、上場株式等の譲渡の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 証券取引法第四九条第一項の規定による信用取引その他の大蔵省令で定める取引による上場株式等の譲渡又はこれらの取引きの決済のために行う上場株式等の譲渡(当該上場株式等の譲渡に係る株式等と同一銘柄の株式等の買付けにより取引の決済を行う場合又は当該上場株式等の譲渡に係る株式等と同一銘柄の株式等を買付けた取引の決済のために行う場合に限る。)これらの決済に係る差益に相当する金額として政令で定める金額

二 転換社債又は新株引受権付社債の譲渡 当該譲渡の対価の額の百分の二・五に相当する金額

三 前二号に掲げる譲渡以外の上場株式等の譲渡 当該上場株式等の譲渡の対価の額の百分の五に相当する金額

右の改正によって有価証券の譲渡所得に関する所得税法上の二つの違憲問題が同時に解決されたものといえよう。

5.最高裁判決(昭和五五年(あ)第一四九一号)について、

(一) 昭和五九年三月一六日と最高裁大法廷判決(昭和五五年(あ)第一四九一号最高裁判所裁判集刑事第二三六号一七九頁)は、所得税法九条一項一一号イ、所得税法施行令二六条一、二項の規定は、「継続して有価証券を売買することによる所得が課税の対象となることを法律自体において明示したうえで、その課税の対象となる所得の範囲をさらに明確にすることを政令に委任したものであって、このような定めが憲法上許されることは、当裁判所大法廷の判例(昭和二八年(オ)第六一六号同三〇年三月二三日判決・民集九巻三号三三六頁、昭和二七年(あ)第四五三三号同三三年七月九日判決・刑集一二巻一一号二四〇七頁)の趣旨に徴し明らかである。」と判示している。

そこで、右に引用されている昭和二八年(オ)第六一六号事件について考察すると、同事件は、地方税法第三四三条および第三五九条は憲法第一一条・第一二条・第一四条・第二九条・第三〇条・第六五条に違反しないとするものであり、また昭和二七年(あ)第四五三三号事件は、一、酒税法第五四条により帳簿記載事項の詳細を定める権限を行政機関に賦与しても、憲法第七三条第六号に反しない、二、酒税法施行規則第一六一条第九号の規定は、酒税法第五四条の委任の趣旨に反しないとするものであって、これらの判例の事案は、何ら具体的な課税標準を示さないで継続して有価証券を売買することによる所得が課税の対象となることを法律自体において明示したうえで、その課税の対象となる所得の範囲を明確にすることを政令に委任した事案とは、全くその内容を異にするものであって、正当な論拠となるものではない。

〈1〉 地方税第三四三條

固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする)に課する。

前項の所有者とは、土地又は家屋については、土地台帳若しくは土地補充課税台帳又は家屋台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登録されている者をいう。この場合において、所有者として登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登録されている第三四八條第一項の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。

第一項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。

市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由によって不明である場合においては、その使用者を所有者とみなして、これを固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。

農地法第九条の規定によって国が買収した農地(農地法施行令(昭和二十七年法法律第二三十号)第五条第一項の規定によって農地法第九条の規定により国が買収したものとみなされる農地を含む。)又は旧相続税法(昭和二十二年法律第八十七号)第五二条、相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第四十一条、所得税法の一部を改正する法律(昭和二十六年法律第六十三号)による改正前の所得税法第五十七条の四、戦時補償特別措置法(昭和二十一年法律第三十八号)第二十三条若しくは財産税法(昭和二十一年法律第五十二号)第五六条の規定によって国が収納した農地については、買収し、又は収納した日から国が当該農地を他人に売り渡し、その所有権が売渡の相手方に移転する日までの間はその使用者をもって、その日後当該売渡の相手方が土地台帳に所有者として登録されるまでの間はその売渡の相手方をもって、それぞれ第一項の所有者とみなす。

土地区画整理法による土地区画整理事業又は土地改良法による土地改良事業の施行に係る土地については、法令又は規約等の定めるところによって仮換地、一時利用地その他の仮に使用し、又は収益することができる土地(以下本項及び第三百八十一条第八項において「仮換地等」と称する。)の指定があった場合においては、当該仮換地等について使用し、又は収益することができることとなった日から換地処分の公告がある日又は換地計画の許可の公告がある日までの間は、当該仮換地等に対応する従前の土地について土地台帳又は土地補充課税台帳に所有者とみなして登録されている者をもって当該仮換地等に係る第一項の所有者とみなし、換地処分の公告があった日又は換地計画の許可の公告があった日から換地を取得した者が土地台帳に該当換地に係る所有者として登録される日までの間は、当該換地を取得した者をもって当該換地に係る第一項の所有者とみなすことができる。

〈2〉 地方税第三五九條

固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

〈3〉 酒税法第五四条

酒類・酒母・醪若は麹の製造業者又は酒類若は麹の販売業者は命令の定むる所により製造又は販売に関する事実を帳簿に記載すべし

〈4〉 酒税法施行規則第一六一条第九号

「酒類、酒母、醪又は麹の製造者は左の事項を帳簿に記載すべし、九、前各号の外製造、又は販売に関し税務署長の指定する事項

(二) さらに論及すれば、地方税法第三四三条は固定資産税の納税義務者たる所有者について、第一項ないし第六項に亘って詳細な規定を設け、第六項において法令又は規約等の定めるところによって「仮換地等」の指定があった場合における所有者について規定するものであり、同法第三五九条は固定資産税の賦課期日を具体的に定めたものであって、課税の対象となる所得の範囲をさらに明確にすることを政令に委任したものではない。

また、酒税法第五四条は帳簿記載事項の詳細を定める権限を行政機関に賦与し、酒税法施行規則第一六一条第九号は右委任を受けた枠内において規定を設けた勅令(政令)に過ぎず、これ亦課税の対象となる所得の範囲をさらに明確にすることを政令に委任したものではない。

従って右の二つの判例は法律が政令に委任するという立法形式の点においてはとも角として、争点となっている委任の内容とは、趣旨を全く異にするもので適切な引用とはいえない。

そればかりではなく、所得税法九条一項一一号イが、前記判示のように「継続して有価証券を売買することによる所得が課税の対象となることを法律自体において明示した」とするのは、一項本文が「次に掲げる所得については所得税を課さない。」と定め、一一号本文が「有価証券の譲渡による所得のうち次に掲げる所得以外のもの」と定めていることを無視して前記イの継続した・・・以下の文章の表現だけをとらえたものであって、その表現の実体を把握しない形式論に過ぎない。文章の表現からすれば有価証券を売買をすることによる所得は、観念上継続した売買による所得の範疇に属するものと、継続しない売買による所得の範疇に属するものとに分けることができる。ところで非課税を原則とする条件下で売買行為を継続と認めるか非継続と認めるかは実際には極めて直接関連する金額算出について具体的な枠決めを全く欠いている形式的表現をもって「法律自体において明示した」ものとは到底言い得ない。

右のような委任の実体は本来非課税であり、不可罰となるべきことが原則とされている有価証券を売買による所得について、その中から課税であり可罰となるべきものの線引き行為を行政機関に委ねるものであることは前述のとおりであって、法律自体において明示したうえで、その課税の対象となる所得の範囲をさらに明確にすることを政令に委任したという論理は、法律自体において明示したという誤った事実を前提とするものであるから、前記最高裁大法廷判決は変更さるべきである。

6.結び

以上述べたところにより、明らかなように、原判決には憲法ならびに法令の違反があり、ひいては事実を誤認したものであって、これらが判決に影響を及ぼすことも明らかである。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反ないし事実誤認がある。

一、各年末における未決済取引に係る確定債務に関する主張と原判決の判示

原判決は、弁護人の

証券会社との間における有価証券の信用取引に関する各年末の未決済取引に係る債務(委託手数料、管理料、有価証券取引税、支払利息等)と債権(受取利息)の差額は、その年中における必要経費として計上されるべきものであるから、判示第二の二の事実については三三三万七八六八円、同三の事実については四五二万三七七円が必要経費として追加計上されるべきものである。

との主張に対し

信用取引により支払い又は支払いを受けるべき金利等は、有価証券を売買に伴う付随費用又は収入ということができるから、当該信用取引に係る取得価額又は収入金額の調整項目として取り扱う(平成元年一二年六日所得税基本通達の一部改正による廃止前の所得税基本通達9-21参照)のが相当であり、かつ、信用取引に係る所得は、当該信用取引の決済の日の属する年分の所得とすべきもの(同基本通達9-23)であるところ、公訴事実記載の実際所得金額を算定するに当たっては、既に右のような取扱いがなされているのであるから、弁護人の主張は採用できない。

と右主張を排斥した。

二、右判示に対する反論

しかしながら原判決の右のような判断は、継続的に行われる株式の信用取引の実態に関する理解を欠き、所得税法三五条二項・三七条一項、改正前の所得税法施行令一一九条の各規定を無視し、これら各規定よりも劣位にあり、かつ行政事務上の便宜によって設けられた所得税基本通達を金料玉条となし、ひいては重大な事実の誤認を犯したものである。

以下その理由を述べる。

まず所得税法三五条二項は、「雑所得の金額は、その年中の雑所得に係る総収入金額から、必要経費を控除した金額とする。」と定め、所得の確定につき一月一日から一二月三一日までの期間計算の原則を規定している。

次いで同法三七条一項は、「雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るために直接要した費用の額及びその販売費一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において確定しないものを除く。)の額とする。」と規定している。

本件有価証券の譲渡による所得を、継続して有価証券を売買することによる所得と認める根拠となっている廃止前の所得税法施行令二六条一項では、「有価証券を売買を行なう者の最近における有価証券の売買の回数・数量又は金額、その他売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする。」と規定しているので、信用取引のための証拠金を金融機関より融資を受けた場合の支払利息、施設を借用している場合の賃料、従業員やパートタイムによる使用人に対する人件費、市況の研究や情報収集のための図書費・謝礼金・交通費・売買取引の発注のための電話料等その年において確定している種々の経費があり、これらが雑所得における必要経費として取扱われることは当然のことである。

弁護人が原審で主張した委託手数料・管理料・名義書替料・有価証券取引税・支払利息は、当該取引の発注のための電話料・交通費などと同じく雑所得を生ずべき業務について生じた費用のうちその年において確定しているものを摘出したものであるから、前記所得税法三七条一項にいわゆるその年の必要経費に該当することは明らかである。

原判決が引用する各所得税基本通達は、所得税法三五条二項・三七条一項、改正前の所得税法施行令一一九条に優先して適用さるべきものではない。

結局原判決は、継続的に行なわれる信用取引の実態に関する理解を欠き、所得税法三五条二項・三七条一項、改正前の所得税法施行令一一九条の解釈を誤り、ひいては重大な事実誤認に陥ったものである。

第三点 原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。

一、各所得金額とこれに対する所得税額に関する原判決の判示

原判決は、被告人安間俊三が、所轄吹田税務署長に対し、

1.昭和五九年分については、所得金額が一三二五万二三九〇円で、これに対する所得税額が六七万四四〇〇円である旨(原判示第二の一)

2.昭和六〇年分の所得金額が一三五五万三一三二円で、これに対する所得税額が七〇万三六〇〇円である旨(原判示第二の二)

3.昭和六一年分については、所得金額が一六〇三万二一三八円で、これに対する所得税額が一一三万八〇〇〇円である旨(原判示第二の三)

各内容虚偽の所得税確定申告書を提出した事実を認定した。

二、右判示の誤りについて

しかしながら右申告にかかる各所得税額は、以下述べるように誤って認定されている。

被告人安間俊三が提出した各所得税の確定申告書の写は、原審で取調済の検察官請求番号九ないし一一の各証明書のとおりである。

右によれば、

1.昭和五九年分については、所得金額が一三二五万二三九〇円で、これに対する所得税額は、二九一万五二四四円であって、六七万四四〇〇円ではなく(請求番号九)

2.昭和六〇年分については、所得金額が一三五五万三一三二円で、これに対する所得税額は、三〇一万一六五二円であって、七〇万三六〇〇円ではなく(請求番号一〇)

3.昭和六一年分については、所得金額が一六〇三万二一三八円で、これに対する所得税額は、四一三万八六〇二円であって、一一三万八〇〇〇円ではない(請求番号一一)

ことが極めて明白であるのに、原判決は右各確定申告書を見誤り、被告人安間俊三が、確定申告の際納付すべき税額と、申告納税額とを取り違え、事実を誤認しているのである。

三、右判示の誤りは量刑の事情の判示にも及んでいる。

そのため原判決は(量刑の事情)なる判示においても、「一年分のほ脱額が二億六三〇〇万円余りの高額に及ぶ昭和六一年分については、ほ脱率九九・五パーセント余りという効率に達する。」と誤った計算をしている。

すなわち右の計算は、前記一一三万八〇〇〇円を二億六三九六万九一〇〇円で除した数値である〇・〇〇四三を、一〇〇パーセントから減じて算出した〇・九九五七を根拠とされているものと推測できるが、右に採用されている一一三万八〇〇〇円は申告所得税額ではなくて、四一三万八六〇二円が申告所得税額であるから、右判示も亦事実を誤認したものであって、量刑に影響を及ぼすことが明らかである。

第四点 原判決の刑の量定は不当に重い。

一、原判示の量刑の事情及び量刑の内容

原判決は量刑の事情として次のように判示したうえ、被告法人を罰金八〇〇万円、被告人安間俊三を懲役二年(四年間執行猶予)及び罰金八〇〇〇万円に処した。

「判示第一の法人税法違反の犯行は、不動産賃貸料を除外したり、知人と共謀の上、特定資産の買換を仮装して租税特別措置法による課税の特例の適用を受けるなどして、三一〇〇万円余りの法人税をほ脱したもので、そのほ脱率は九四パーセントに達する。また、判示第二の所得税法違反の各犯行は、有価証券の継続的取引による所得のすべてを除外するとともに、不動産賃貸料や利子所得を除外するなどして、三期にわたり、合計三億四四〇〇万円余りの多額の所得税をほ脱したものであり、そのほ脱率はいずれも九七パーセントを超えるのみならず、一年分のほ脱額が二億六三〇〇万円余りの高額に及ぶ昭和六一年分については、九九・五パーセント余りという高率に達する。被告人安間の刑責は相当に重いものがあるといわざるを得ず、懲役の実刑を以て臨むことも考慮されて然るべき事実とも考えられる。

しかしながら、地方では、昭和六一年分の所得税法違反以外の各事実については、いずれもそのほ脱額が特に大きいとまではいえない上、所得税法違反の大部分を構成する有価証券の継続的取引による所得の除外については、この種取引による所得の成否やその金額が景気の変動や市場の思惑に左右されがちな面があることを否定できず、損益通算も認められていないこと等を併せ考慮すると、たまたま昭和六一年分のほ脱額が高額に達しているからといって、そのほ脱額を額面どおりに評価して被告人の刑責を量定することには疑問が残らざるを得ない。また、被告人は、調査の当初からおおむね事実を認め、本税・附帯税についても実質的にその全てを納付している外、現在では反省もしていることなど、有利な事情も認められる。そこで、これらの諸事情を総合考慮した上、被告人安間については、相当の懲役刑はとうてい免れないものの、その執行を猶予するのが相当と認め、主文のとおり量刑した。」

二、原判決の量刑の違憲・不当について

然しながら原判決の量刑は、以下述べるように憲法三九条・一四条に違反し、かつ著しく重いものである。

1.憲法三九条違反について

本件査察調査による事実確定に従って、被告法人は、一二七四万一〇〇〇円、被告人安間俊三は一億〇四二一万四〇〇〇円の各重加算税を賦課された。(被告法人も被告人安間俊三も共に査察調査結果どおりの修正申告をしており、原判決における所得税の減額認定については考慮されていない)。

そしてさらに右事実について、前記のように被告法人は罰金八〇〇万円、被告人安間俊三は懲役二年(四年間執行猶予)及び罰金八〇〇〇万円に処せられた。

日本国憲法三九条は、「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とさた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。」と規定している。すなわち刑法の不遡及・一時不再理の規定である。

ところで、重加算税の課税要件(国税通則法六八条)と所得税逋脱犯の犯罪構成要件(所得税法二三八条)とは理論的に重なり合うものであるから、同一の行為について刑罰を科するとともに併せて懲罰に相当する重加算税を課すことは右憲法三九条に違反するとの見解は、必ずしも排斥されるべきものではない。

この点については、既に最高裁判決(昭和三二年四月三〇日、民集一二巻六号九三八頁)は、重加算税は刑事上の責任を問うものではないから二重処罰にあたらないとしている。

しかしながら重加算税制度が設けられた起源である昭和二四年のシャウプ勧告は、刑事制裁と民事制裁とを別個のものと考えず、その悪性度に従っていずれかの制裁が科せられるべきものとしているので、憲法三九条はその趣旨にそって運用されるべきであり、その点に反する原判決は憲法三九条に違反するものといわなければならない。(別添資料一、北野弘久教授の鑑定所見書第二項参照)

2.憲法一四条違反について

日本国憲法一四条一項は、「すべて国民は、法の下の平等であって人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は、社会的関係において、差別されない。」と規定している。

右の規定中の差別の内容については、あらゆる法律上の差別は、国民の政治生活に関するものか、経済生活に関するものではないかぎり、すべてその社会生活に関するものであるから、法律上の差別は、つねに「政治的、経済的又は社会的関係」における差別であると見るべきであり、「差別されない」とは、差別を内容とする行為(法律ないし処分)を無効とする意である。(宮沢俊義・憲法Ⅱ二六五頁)

さらに差別によって不利益を享受する者が一部の少数者であって、利益を享受するものが多数者である場合でも、またその逆の場合であっても要するに差別は許されないものと解すべきである。

ところで、税法違反事件の処理・処罰については、政治家や大企業所属の身分を有する者は他に比べて著しく寛大な取扱いがなされていることについては幾多の新聞が報ずるところである。

例えば、衆議院法務委員長であった相沢英之議員の株売却益二億円の申告漏れについては、申告漏れの大半は、同代議士が株の売買を親族や友人名義で行った形にして所得税法で定める株式売却益の非課税枠で納めていたというものであり、国税当局の調べで有力銘柄や一部、仕手筋といわれる株式の大量売買がわかったと新聞は報じている。(昭和六三・二・五付読売・・・別添資料三)同代議士は元大蔵事務次官として在官当時は査察事件処理にも関与し国民の指導的立場にあった人であるが、右事件の脱税の手段、態様の悪質性や反社会性は、取引名義人の殆どを安間俊三本人名義としていた本件を遙かに凌ぐものであるのに、過少申告加算税が課せられただけで、起訴は勿論告発も行われていないし、依然として代議士の身分にあって国務大臣に就任されている。これに反し被告人安間俊三は本件が確定すれば、宅地建物取引業を廃業しなければならず、糧道を絶たれてしまうのである。

本件の処分と比べると、同じ日本国民でありながら月とすっぽんの差異が存する。

また、中曽根康弘代議士の自民党総裁選出馬資金作りの協力を依頼されたという殖産住宅会長東郷民安被告に対する所得税法違反被告事件は、現在よりも遙かに貨幣価値が高かった昭和四七年に、一四五回、約二二〇〇万株を売買して三九億円余の巨額の所得がありながら、約七二〇〇万円を申告し、二九億円余を逋脱した事案があって、これに対し懲役二年六月、執行猶予三年、罰金四億円(求刑懲役三年、罰金八億円)の判決が確定しているのである。(昭和五九・三・一六付読売・・・別添資料四)

さらに大企業関係では、「伊藤忠、二二億円申告漏れ、五四年から三年間八億円を追徴・・・重加算税適用」(昭和五八・二・一二付日経・・・別添資料五)、「七五億円の申告漏れ、清水建設二年分、三二億円追徴、申告漏れのうち一億円は重加算税対象」(昭和五八・八・二三付日経・・・別添資料六)、「佐川急便グループ、六〇億円申告漏れ、一部重加算税追徴」(昭和六一・六・一九付読売・・・別添資料七)、「三菱信託六五億円申告漏れ、重加算税を含めて追徴三二億円、為替取引で架空差損」(昭和六二・二・二七付朝日・・・別添資料八)、「キャノン所得隠し、パナマの現地法人利用・重加算税を含めて一一億円追徴」(昭和六三・六・二一付読売・・・別添資料九)、「大和証券に追徴一〇〇億、ダミー会社を利用して大口顧客の有価証券売買損を補てん、更正処分の対象となる所得額は一一〇億円程度、重加算税などを含めた追徴税額は約一〇〇億円」(平成元・一二・二四付日経・・・別添資料一〇)など超大型の申告漏れの事件がいずれも告発されないで税の追徴だけで終っている。

「外為取引で架空差損」「パナマの現地法人利用」「ダミー会社を利用」などの手口は、それぞれの知略による極めて悪質な脱税手段であり、通常これらが重加算税賦課の対象であるとともに告発対象となるものであること、さらにいわゆる概括的犯意説に従って申告漏れのすべてが告発対象となるものであることは明らかであるのに告発がなされていない。

また、リクルートの江副浩正会長や稲村利幸代議士の多額の有価証券売買益についても、追徴課税だけで処理されるのではないかと推測される。(平成二・二・二一付日経・・・別添資料一一)

国税査察官には、司法警察員のような捜査事件送致義務がないことが、このような不平等を出現させているものと考えられる。

政治家ないし政治家との関連者でもない、又大企業にも属しない、いわゆる一般庶民に対する処罰は、いわば切捨御免であって、その社会的地位から明らかに差別を受けているのである。被告人安間俊三は、政治関係者のように、有力銘柄や仕手戦に関する特殊情報を入手していわゆるインサイダー取引を行った者でもない。同被告人が本件の量刑に対してどうしても納得できないところである。

このことは単なる処罰を受けた庶民としてのひがみではなくて巷間において広く叫ばれているところであって、国民の総意に従ってこの弱い者いじめは是正されなければならない。

このような不公平は、公平な司法機関によって是正され庶民に対して公平感と国政に対する信頼感が与えられる必要を痛感する。

懲役二年(四年間執行猶予)の刑と言えば何回かの前歴のある窃盗犯人や詐欺犯人に対する刑に匹敵する。

原判決の被告人安間俊三に対し「懲役の実刑を以て臨むことも考慮されて然るべき事案とも考えられる」との判示は、あまりにも気負い過ぎであって、証券取引の実態に関する理解を欠き、広く経済社会の実情を考察し、真の平等が行き渡ることを念頭に置かれているのか疑問なしとしない。

被告人の量刑は憲法一四条に違反すると主張する所以である。

3.有価証券取引の実情

原判決の判断は、その根底において有価証券の取引の実情に関する認識を著しく欠いているところに発している。

被告人の取引は勿論のことであるが、一般に有価証券の取引約定はすべて証券会社を通じて発注し、証券市場において成立するものである。従って、買注文に対しては必ず同一銘柄、同一数量、同一価格で売注文を発する相手方が存在し、この間に売買の約定が成立するものであり、逆に売注文に対しては、やはり同一の条件で買注文を発する相手方が存在することによって約定が成立するのである。

これらの集積によって公正な市場価格が形成されるというのが証券市場の仕組みある。

而して株価は上昇するか下落するか上下の方向以外に変動することのない単純なものである。

株価が上昇すれば買った人は儲かるし、売った人は損をする、下落すれば買った人は損をするし、売った人は儲かるということは自明の理である。そして、景気変動は経済社会における常識であって、最近の数年間における株価の上昇は異常ともいえようし、いつまでも永続する筈のものではない。株式取引の経験のない者の中には、株式売買をしている者は必ず利益を得ていると錯覚している人が多くいる。

しかし、ここで見落し易いことは、証券取引においては必ず儲けた人と同じだけの損をしている人がいるということである。つまり有価証券を売買をすれば必ず利益が得られるというのではなくて、利益と損失の確率は五〇パーセント宛である。

現に被告人の例をとってみても、本年に入ってからの株価大暴落により、特殊の評価において約二〇億円の損害が発生している。

昭和四〇年所得税法施行令二六条に定められた年間取引が五〇回、二〇万株の規制は証券民主化が叫ばれ証券取引の飛躍的な膨張の中で二〇年以上もの長い間何の手直しもされないままで経過した。これこそ洵に奇妙なことである。全国的にみてもこの種所得で告発された者は昭和六〇年末では皆無に等しかった。いわば休眠法令あり、そのような措置こそ常識にそったものと言える。投資家・投機家が右の制限を潜脱するために、仮名取引・仮名取引の口座を設けることは証券取引業界では暗黙裡にしかも常識のように盛んに行われて来た。証券会社の外務員も業績を挙げたいために顧客にこれを勧誘した。大蔵事務次官を経験し衆議院法務委員長であった相沢代議士の場合もその一例といえよう。

仮名取引・仮名取引の口座を利用した投資家・投機家が巨額の損失を蒙った場合(このような危険はつねに二分の一の確率をもってつきまとうものである)でも泣寝入りをするほかはない。証券会社がダミー会社を利用して大口顧客の有価証券売買損を補てんしてくれるようなことがあることは、被告人も弁護人も最近の新聞報道によって初めて知った(平成元・一二・二四付日経・・・別添資料一〇)。このようなことは証券会社と特別の関係のある大口顧客でなければできないことであろうし、そこには脱税犯以外の犯罪成立の危険性も存在する。もはや善良なる庶民の近づき難いところである。

そうすると一般の平凡な顧客としては、儲かっていても翌年度にはどのような損失が出るかも知れないという不安から、多くの場合利益が出ても損失が出ても税のことについては念頭から離してしまいたいという心境になるのが自然とも考えられる。

被告人も亦右と同様の心境にあったもので、偶々幸運にも損益の確率二分の一の有価証券取引において、昭和六一年度には財テクブームの波に乗り予想外の利益を得たが、決して濡れ手に粟のような利益を得たわけではなく、その陰にはいつも二分の一の確率のある損失が発生した場合には泣寝入りをしなければならないという覚悟を決めていたのである。

4.所得税法違反につき現行税法を適用すると逋脱税額は著しく低額となる。

原判決は、「被告人安間俊三の昭和五九年分ないし昭和六一年分の秘匿所得は合計五億二八六四万四八八一円、逋脱税額は合計三億四四六四万一〇〇〇円で巨額である。」というが、本件当時における所得課税は極めて過重であり、特に高額所得に対しては累進税率により一層重い税が課されていた。従って所得が高額になればなるほど脱税率も高率になるのは当然であって、本件では所得税(国税)だけで所得額の六〇パーセントを超える驚くべき高率である。

参考までに、多摩大学日下公人教授の『「豊かさ」を「幸せ」に撃ぐために、良い税金、悪い税金、働く者の立場に立った「納めて楽しい税金」の提唱』の一節を以下に掲げる。(PHP研究所発行・「Voice October 一九九〇」一〇七頁以下)

○ イギリスでは、昨年正月の税制改革にあたって当時のローソン蔵相が、「もはやイギリスには四〇%以上の所得税は存在しない」と啖呵をきった。累進所得税が五〇%、六〇%となったのを四〇%で頭打ちにしてしまったのだが、国民負担率としては、そのほかに社会保険負担料があるから、やはりイギリス人は五五%くらいを取られてしまうらしい。しかし、これをもっと下げていかないと、働き者がどんどん外国に出ていってしまう。

たとえばベッカーというドイツのテニス選手は、高所得が上がるようになったらスイスへ行ったきりになってしまった。ドイツの税金で育ててもらったのに、収入が上がりだすとドイツを逃げ出した。一番税金の安いところに働き者が逃げてしまうから、国内にはもらう人ばかりが残って、税金や保険料を出す人はいなくなる。企業も同じで、黒字会社は税金亡命をするし、赤字会社は国内に残る。

これはゆくゆくは世界一律にならなければいけない。日本も国民負担率は三〇%くらいのときが、一番よかったのではないか。

○ 戦後、先進諸国で著しく増加したのは所得税である。その考え方は、金持ちから取って、貧乏人に回す――そうしないと革命が起ってソ連になってしまう。ソ連になるよりは、というので税金を納めるほうも納得したというのが長所だが、もちろん短所もあった。

一つは、何でも国がしてくれるというので、国民がおんぶにだっこをするようになった。いわゆる福祉の行きすぎである。それから、所得税率が高くなったため、ある程度所得が高くなると、能力のある人がそれ以上働かなくなる、という弊害。そこで税率が高すぎるのではないかと、どのくらいが適当が、という議論が出てきた。

アメリカでは、レーガン大統領が最高所得税率を二八%にしてしまった。これは少し下げすぎじゃないかという声も出ている。アイアコッカも自分の本のなかで、「二八%払ったあとは全部自分のものだが、ちょっとこれは気が咎める」といっている。それなら初めからそんなに高給を取らなければいいのに、といいたくなるが、いずれにせよ、所得税の水準が下がるのは世界的な傾向である。

レーガンが挙げた理由は、〈1〉税収があると国家は乱費するから、民間に残したほうが経済発展によい、〈2〉税率が高いと節税のための産業が発展するが、それは不健全だ、というもので、私が第三の理由を付け加えると、〈3〉所得税は国家と国民の仲を悪くする税金だと思う。

なお、累進課税のもとでは、所得金額一億円のうち一〇〇〇万円を脱漏した場合の脱税率よりも、所得金額五億円のうち五〇〇〇万円を脱漏した場合の脱税率の方が高くなるわけで、高額所得者の脱税事案において脱税率の高低をもって情状判断の重要な要素とすることには疑問がある。

昭和六三年法律第一〇七号税制改革法第四条の関係で、大蔵省は、「今次税制改革の方針」として、「今次の税制改革は、所得課税において税負担の公平の確保を図るための措置を講ずるとともに、税体系全体として税負担の公平に資するため、所得課税を軽減し、消費に広く薄く負担を求め、資産に対する負担を適正化すること等により、国民が公平感をもって納税し得る税体系の構築を目指して行われるものとすることとした。」と説明を加えている(昭和六三年一二月三〇日付官報号外特第二〇号一頁最下段)。

而して税制改革法に定める税制改革の趣旨、基本理念及び方針に従い、所得・消費・資産等の間で均衡がとれた税体系の構築を図るため、その一環として消費税法が制定実施され、有価証券を売買益に関しては、前記のとおり租税特別措置法第三七条の一〇及び一一の規定が設けられた。

従って税制改革法や消費税法等が施行さている現時点においては、原判決認定の逋脱税額は、所得・消費・資産等の間で不均衡が存在した税体系のもとにおけるものであるから、量刑においてはこの点が考慮されなければならない。

本件における有価証券の譲渡所得に対し、現行法による源泉分離課税を選択して税額を計算すると、税理士大掛勝之作成の有価証券取引における譲渡益に対し現行税法による源泉分離課税を選択した場合の所得税額表(弁第一四号)のとおり

昭和五九年分 九六五万〇六五四円

昭和六〇年分 九六六万九九八二円

昭和六一年分 四三六八万七三九三円

合計 六三〇〇万八〇二九円

となり、所得金額の八六・一九パーセントを有価証券の譲渡所得に対する税額は著しく低額となる。因みに原判決認定の三ヶ年分の所得税額は三億四七一五万七〇〇〇円である。

勿論これを基本として算出される重加算税・延滞税・住民税も当然軽減されることになる。

現行法によって、有価証券の譲渡所得に関する脱税は不可能になったといえるし、現行の課税標準であれば、何人も脱税を企画する必要性も無くなったものと考えられる。

旧法がいわゆる悪法であることは、何人も認めるところであろう。

5.被告法人及び安間被告人の納税と国費の使途

原判決が確定すると、被告法人関係で一億三一六二万三四三一円、安間被告人個人で五億九一九八万四九〇〇円、合計七億二三六〇万八三三一円を国税及び地方税として納付することになるとともに、宅地建物取引業を廃業しなければならないことになるが、他方で被告人らから徴収された税はどのように消費されるのであろうか。その一部は政府開発援助(ODA)資金となるであろうが、その平成二年度予算額は一兆四四九四億円にも及んでおり、(平成二・一・二三付読売・・・別添資料一二)これについては「金出せど、役立たず、理念欠け、疑問の声も」(平成元・一二・二九付朝日・・・別添資料一三)などの批判がある。また、日米民間建設会議において米側はODA関連工事への米企業参入を要望し、閉鎖的とされるわが国ODA事業の門戸開放が強く求められている。(平成二・一・二七付日経・・・別添資料一四)

世界一の経済大国となった日本が政府開発援助資金を負担することは好ましいことである。しかしそれらが「本当に役立っていない」「政治家の他国に対する椀飯振る舞いというだけで、その理念に欠けている」「調達車輛が修理できず放置されている」というような批判を受け、又、その使途が日本の大企業に還流されていること、そして他方では前記のように大企業の所得の申告漏れは極めて寛大に不平等に取扱われていることなど併せて考察すると、本件につき十分反省をなし、さしたる前科もない平凡な一市民でひとしく同胞である被告人がその皺寄せを受け、実際所得額を遙かに超える資金と、糧道である宅地物取引業とを取り上げられて、呻吟の日を送るのはあまりにも哀れと言うべきである。

6.結び

被告人は強い反省の中において、少年時代に歴史書で読んだ人皇第一六代仁徳天皇の御仁政の御代を想起し、あの時代に生を受けた民草なりせばなどと想起しながら貴裁判所の御高断に期待をかけているのである。

以上の諸事由により原判決を破棄し、さらに相当の御裁判を求めるため本件公訴に及んだ次第である。

以上

別添一

鑑定所見書

日本大学法学部教授

法学博士 北野弘久

(平成二・二・一一)

最高裁判所平成二年(あ)第一六号・所得税法違反被告事件について、大槻龍馬弁護士の依頼により左のごとく税法学上の所見を申し述べる。

一、憲法三〇条・三一条・八四条違反 本件当時の所得税法(以下単に「所得税法」という)九条一項一一号イは

「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」に所得税を課税することとしている。つまり、同号イは非課税原則の例外規定である。この例外規定の規定の仕方がきわめて抽象的・一般的である。今日の複雑な取引会社において何人も「継続して有価証券を売買すること」の具体的判定基準を同規定から抽出することは不可能である。加えて、このような抽象的・一般的な規定が本件に適用され、所得税法二三八条の逋脱犯の実体的構成要件自体を構成しているという点に注意が向けられねばならない。理論的には単に租税法律主義(憲法三〇条・八四条)のみならず、罰刑法定主義(憲法三一条)の観点からも、このような形での命令への委任のあり方が問題となろう。

所得税法九条一項一一号イの規定を受けて、本件当時の所得税法施行令(以下単に「所得税法施行令」という)二六条一項は、「法第九条第一項第一一号イ(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行なう者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする」と規定し、

さらに所得税法施行令二六条二項は、「前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の同項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。

一 その売買の回数が五〇回以上であること。

二 その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上であること。

と規定している。国民主権を基調とする日本国憲法の租税法律主義および罪刑法定主義のもとでも、一定の委任命令の存在は肯定されねばならない。しかし法律が命令に委任する場合であっても、議会は当該法律自身において租税構成要件および犯罪構成要件の基本的枠組みを規定していなければならない。所得税法九条一項一一号イは、その種のことがらを全く規定していない。その意味では、同号イは実質的には包括的な命令への委任規定といってもよい。株式の売買回数やその株数がいくばく以上になった場合に課税されるかは、重大かつ基本的な租税構成要件および犯罪構成要件における各構成要素である。以上によって明らかのように、本件被告事件についていえば、所得税法二三八条の犯罪構成要件が法律ではなくあげて政令で規定されているといってもいいすぎではない。

以上により、所得税法九条一項一一号イおよび所得税法施行令二六条二項は、憲法三〇条・三一条・八四条に違反し無効であるといわねばならない。

二、憲法三九条違反 重加算税の課税要件として「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」と規定されている(国税通則法六八条)。一方、逋脱犯の犯罪構成要件として「偽りその他不正の行為により、・・・税を免れ・・・」(所得税法二三八条)と規定されている。したがって、重加算税の課税要件と逋脱犯の成立要件とは理論的には重なり合う。

昭和二四年のシャウプ勧告は、重加算税制度を提唱するにあたって、つぎのように述べていた。「現在詐欺事件に適用される唯一の罰則は、その適用に起訴を必要とする刑事罰である。詐欺行為は処罰することなく黙過することはできない。そこであらゆる事件に刑事訴追をなす必要から免れるため民事詐欺罪を採用することを勧告する。この罰則のもとでは、納税額の不足が税の逋脱を意図する詐欺によるときは、その不足分のほかに不足分の六〇%相当額が支払われなければならない。この金額は税と同様な方法で徴収され実質的に税の一部となる。」

これによっても知られるように、重加算税が課される場合には、同時に理論的には逋脱犯として刑罰が科せられるべき場合である。シャウプ勧告は、当時の諸状況にかんがみて、刑事訴追を免れせしめる必要性を認めて、その代りに、このような民事制裁制度(加算税制度)を提唱した。勧告は、「行政のパターンが変化するにつれて、・・・制裁の体系も再検討されねばならない」と指摘していた。加算税制度は、本来、申告納税制度を育成するための行政上の便宜措置であり、それはその意味では過渡期的な措置であるととらえることができるであろう。

憲法三九条は、「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と規定している。最高裁昭和三三年四月三〇日大法廷判決・民集一二巻六号九三八頁も判示するように、法形式論からいえば、重加算税は行政手続により租税の形式で課されるものであって、罰金等の刑罰そのものではない。そのような法形式論からいえば、重加算税と刑罰との併科(課)は必ずしも憲法三九条に違反するとはいえないかもしれない。

しかし、さきに紹介したシャウプ勧告の趣意(過渡期的便宜措置)に鑑みても、実質論的には同一行為にたいする重加算税と刑罰との併科(課)は二重の制裁を科(課)するものであることは否定しない。その意味では、両者の併科(課)は少なくとも憲法三九条の趣意に反するものであるといわなければならない。

この憲法趣意背反性を回避するために、たとえば、立法論的には法律において軽度の税法違反には刑罰を科さず重加算税のみを課することとし、重度の税法違反には重加算税を課さず刑罰のみを科することとする、などの租税制裁制度を二元的に構成・整備する。そして、法運用論的には重加算税を納付している場合には量刑にあたってはそのことを考慮して寛刑を科すること、が考えられよう。

このようにみてくると、現行法のもとでも量刑にあたって重加算税納付の事実を考慮しないときは、運用違憲を構成することとなろう。

本件の逋脱所得は約一三億二九〇〇万円である。被告人は、本件を深く反省し、さまざまな犠牲を払って、すでに逋脱所得の本税額、重加算税額、延滞税額、住民税額等を納付している。その額は約一四億六〇〇〇万円に達している。これは逋脱所得額よりも約一億三〇〇〇万円も多い金額である。原判決によれば、被告人は、このほか一億六〇〇〇万円もの罰金を納付しなければならず、さらに懲役一年一〇月の実刑に服さなければならない。被告人は、金員だけでも逋脱所得額よりも二億九〇〇〇万円も多い金額を支払わなければならないこととなるわけである。

被告人は、健康上の理由もあり、昭和六二年四月からは歯科医業を廃業している。それにもかかわらず被告人は、妻と三人の子供を扶養しなければならない。

本件の逋脱所得のほとんどが歯科医業にかかるものではなく、株式の譲渡にかかるものである。株式取引は通例、証券会社の担当者等の指導によって行われており、多くの場合、納税申告することを脱漏しがちとなる。その意味では通常の事業所得等にかかる逋脱犯とは罰質が異なり、その犯情は悪質であるとはいえない。被告人には前科がない。被告人は、本件を深く反省して、さまざまな犠牲を払って本件の巨額の重加算税額を含む本税額等を納付するとともに、その後の年分についても誠実に納税申告等をしている。

以上の諸事情を総合勘案すると、原判決の量刑はあまりにも不当であるといわねばならない。

仮りに、前記の被告人をめぐる人的諸事情の点を別としても、重加算税と刑罰との併科(課)の点に限っても、逋脱所得額を二億九〇〇〇万円も上回る金員の納付と懲役一年一〇月の実刑を宣告した原判決は、憲法三九条の前記趣意に鑑みても運用違憲に該当するといわねばならない。巨額の重加算税額を納付している事実を考慮して最小限度、懲役刑については執行猶予が付されるべきであった。

三、憲法一四条違反 株式の譲渡による脱漏所得については、実務においては刑事訴追をされることは少ない。たとえば、元大蔵次官をつとめた相沢英之代議士の事件(読売新聞昭和六三年二月五日)の場合には、修正申告と過少申告加算税の納付だけで終っている。重加算税も課されていない。二億円という巨額の脱漏所得であったが、刑事訴追はされていない。また、刑事訴追をされた場合でも実刑判決はあまり示されない。たとえば、有名な殖産住宅の東郷民安氏の事件(読売新聞夕刊昭和五九年三月一六日)の場合には、懲役二年六月、執行猶予三年、罰金四億円云い渡しが確定した。同事件は罰金、懲役の双方において本件をはるかに上回る。それにもかかわらず、執行猶予が付されている。

これらの先例からも知られるように、原判決の刑の云い渡しは、法執行の平等原則(憲法一四条)に違反する。この点からも、最小限度、懲役刑については執行猶予が付されるべきであった。

一九九〇年二月一一日

右 北野弘久

最高裁判所第二小法廷 御中

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